本プログラムの牧昌次郎助教と博士後期課程3年の木山 正啓さんが開発した生物発光技術が、科学雑誌Scienceに掲載されました(2018 年2月23日)。本研究は理化学研究所、宮脇敦史プロジェクトリーダーと基礎科学特別研究員である岩野智さんとの共同研究になります。論文の筆頭著者である岩野研究員は牧研究室出身で、博士号取得後、理化学研究所で大変アクティブに研究を進め、今回の素晴らしい研究成果の発表につながりました。
研究の概要
新しい発光技術
ホタルの発光システムはライフサイエンス分野で非常に多く用いられていて、遺伝子発現の解析や癌の可視化など様々に応用され成果をあげてきました。このように生体内の様々な現象を画像によりとらえる技術をバイオイメージングと呼びます。しかし、これまでの発光システムでは生体の深部を観察することは、発光の強さや波長の問題で困難でした。牧研究室ではこれまでに発光基質を改良することにより生体内部のイメージングに大きく貢献してきました。さらに今回の成果では、発光酵素を改良することにより、従来法より頭部では何と1400倍ものシグナルの増幅が可能となりました。それにより生体の深部のイメージングが可能になりました。
成果①脳深部のバイオイメージング
マウス脳深部の線条体という部分に、発光酵素の遺伝子を導入し、発光基質を摂取させて発光を観察したところ、動き回るマウスの頭部が光っている画像を見事に得ることが出来ました。これまでの技術では、線条体のような脳の深部を細胞レベルで、しかも自由に動き回ることができる状態で画像を得ることは不可能でした。さらに、脳研究では重要なサルの1種であるマーモセットの線条体でも、発光画像を得ることが出来ました。これらの動画は、脳のイメージングを行ってきた研究者にとっては非常に衝撃的な内容です。
http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180223_1/
成果②海馬活性化のイメージング
さらに驚くべき成果として、脳深部の単純なイメージングだけでなく、海馬といった脳深部の神経細胞の「活性化」を、生きた状態で、開頭したりもせずに観察した点が挙げられます。マウスは、飼育環境を変化させると脳に刺激が入り、海馬の神経細胞の活性化が見られます。今回の技術を応用することにより、実際に活性化している海馬の神経細胞を、生きたまま観察することに成功しました。この成果のように、脳深部の神経の活性化を細胞レベルで、しかも生きたまま観察できたことは、今後の脳研究の発展に計り知れないインパクトをもたらすと考えられます。
成果③腫瘍1細胞のイメージング
腫瘍が転移する仕組みを明らかにする目的で、マウスの尾から発光酵素を持つ腫瘍細胞をたった一つ注入した場合でも、腫瘍細胞の移動先と考えられる肺で発光を観察することに成功しました。肺のような大きな組織の体表から深い部分に腫瘍細胞が入り込むと、従来法での観察は不可能でしたが、これも、今回の新技術により初めて可能となりました。腫瘍の転移は、非常に少数の細胞の移動により起こることから、体内でのその仕組みを解明することは非常に困難でしたが、今回の技術は、その研究にも大きな流れを与えるものと言えます。
これらは、今回の新技術を用いた成果してはまだまだ一部と言えます。「生体の内部を、生きた状態で、何のダメージも与えることなく見る」ことが可能となった今、その応用範囲は生命科学分野全体に及ぶことは間違いなく、今後のさらなる成果に期待されます。
実際のデータの詳細は理化学研究所のホームページに記載されています。
http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180223_1/
牧研究室ホームページ
http://www.firefly.pc.uec.ac.jp/index.html
また、メディアにも既にいくつか紹介されています。
(解説:仲村厚志)